やっぱり傷つくのが怖い
『人力飛行機ソロモン 松山篇』に参加した。
僕は幸せだった。幸せすぎて涙が出てきた。はるばる西の国にやってきて、こんなイベントに参加することができたのだ。決して百パーセントの満足ではない。でも、ここまでの過程に思いを馳せると、本当に感慨深いものがある。
今日、マンキツにて目覚めて、午前中はサンマルクで祖母に手紙を書いていた。留年することを納得させるための手紙である。東京じゃ書けなかった。どうしても書けなかった。その手紙を書くのもこの旅行の目的のひとつだったのである。2時間かけて手紙は完成した。便箋に十枚ほど書いた。ローソンにて投函。ここから福島まではだいぶあるが、いつごろ着くのだろう。
11時半ごろ、集合場所の松山市役所前。この演劇では、チケットを渡して会場に入るのではない。チケットと引き換えに、地図とお面を渡されるのである。
何のお面か? 東京にいたときからずっと気になっていたが正解は、正岡子規のお面だった。地元松山にゆかりの人、正岡子規である。
劇が始まってしばらくして、顔を白塗りにして、コスプレ衣装を貸してくれるサービスにめぐり合い、千載一遇のチャンスとばかりに変装する。
(ここまで書いて気づいた。東京の自宅に戻らなければ、デジカメで撮った写真をアップすることができないではないか。詳しいことは帰ってから改めて記すことにする。)
「俳優と観客の相互作用」が、この劇において、どこまで実現されていたか、僕にはよくわからない。けれども僕は今回、「観客席に座っているだけでは、演劇はやってこない」ということを身をもって知らされたし、「演劇は待つものではなくて、自分から探しにいくもの」であるという劇団のメッセージは十分に受け取ったつもりである。
また、これも帰ってから詳述するが、今回、さながら逆ミンストレル・ショーのごとく顔を白塗りにしてみて思い知ったのは、「みんなと違うことの怖さ」である。
大勢の通行人に交じって、ひとり(実際にはひとりではないが)白塗りの顔と奇妙なコスプレをしていることの、途方もない疎外感。黒人が少数で白人と交じるときの恐怖って、こんな感じだったのではないかと思うのだ。映画『マルコムX』の序盤において、マルコムが危険をおかしてまで黒人パーマを矯正して白人と同じ髪型になりたがった気持ちが、よくわかったような気がする。
大急ぎで、メイクをしてくれた店に戻って白塗りを落とした。
つまり、僕は現実において虚構の登場人物たる度胸を持たない男である。
うすうすわかってはいたけど、改めて思い知らされるとちょっとばかりショックである。
さて、今夜も、マンキツにて朝までゆっくりすることにする。